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ゼラチンアレルギーについて -低アレルゲンゼラチンの開発
カテゴリ:お知らせ 2009/02/01
ゼラチンアレルギーの発症の経緯
ゼラチンは、医薬品、化粧品さらに食品など様々な分野で伝統的に広く用いられている生体材料です(文献1)。食品では、ゼラチンの持つ粘調性、ゲル形成能、乳化特性、保水性等の特性を用いて様々な加工食品に利用されています。またゼラチンは、畜肉、動物骨皮にも豊富に含まれて日頃食べられています。医薬領域においても、アレルゲン性の低い安全な生体材料として、カプセル、注射薬安定剤、止血剤をはじめとして広く用いられてきました。しかし近年ゼラチンを安定剤として含むワクチン接種に伴いアレルギー症状を起こす例が見つかり新聞等でも平成6年から7年にかけて報道されました。
ニッピでは、問題が起きた当初よりワクチン接種にともなうゼラチンアレルギーの原因追求およびその解決法の研究に取り組んでまいりました。これまでの研究内容は食品化学新聞(平成14年7月4日)で紹介された他、より詳しい内容がフードケミカル誌(食品化学新聞社)に掲載されております(文献4)。
I.ワクチン接種にともなうゼラチンアレルギー発症
1.ゼラチンアレルギーの頻度
ワクチン接種にともなうゼラチンアレルギーの頻度 1994年ゼラチンを含有するワクチン接種(おたふく、麻疹)に伴いアナフィラキシー症状を示す患者が見つかり、ゼラチンに対するIgE抗体が見いだされたことから原因物質がゼラチンであることが判明しました。阪口らの調査によると1994~1996年にかけてゼラチンを含むワクチンの接種によりアレルギー反応を示した患者数は接種者 百万人あたり麻疹ワクチンでは6.84例、風疹ワクチン7.31例、ムンプスワクチン4.36例、水痘ワクチン10.3例という非常に少ない確率です(文献2)。
2.ゼラチンアレルギーの発症は特定の年齢層に限られる
ゼラチン含有ワクチンで感作されたためにゼラチンアレルギーを発症する世代は特定の年齢層に限られる 1993年以前にはゼラチン含有ワクチン接種によるショックはほとんど報告されておらず、さらにワクチン接種によるゼラチンアレルギーの発症が頻発したのは日本に限られています。日本では1988年以前には3種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)を2歳児に接種していました。しかし、国内でこのワクチンの弱毒化に成功したため、1989年より接種を3ヶ月-24ヶ月齢に前倒ししてきました。このワクチン接種スケジュールによって、非常に若い時期に3種混合ワクチンに含まれるゼラチンによって感作された一部の幼児が、その後受けた、麻疹、おたふく風邪のワクチン中のゼラチンによってアレルギー反応が惹起された可能性が指摘されています。
2歳児に接種していた頃もゼラチンを含む3種混合ワクチンでありましたが、当時接種された方ではその後のゼラチン含有ワクチン接種でゼラチンアレルギーを起こす事はありませんでした。
厚生省はゼラチンアレルギー対策として、3種混合ワクチンからゼラチンを除く措置を行い、1996年に完了し、その後新たなゼラチン含有ワクチン接種によるアナフィラキシーの発生は報告されておりません(2003年4月時点)。
つまりワクチン接種が原因でゼラチンに感作されたためにゼラチンアレルギーを起こす可能性のある世代は1988年から、1996年までに3種混合ワクチンを接種された年代に限られます。
感作された方々はその後ゼラチンで惹起されてアレルギー症状を示す事がありますので、ゼラチンアレルギーの発症がこの期間に限るという事ではありません。
3.ゼラチンの抗原部位の特定
ニッピでは、ゼラチン含有ワクチン接種にともなうゼラチンアレルギーが報告された当初より、ゼラチンの抗原部位を特定するための基礎的研究を続け、その知見を活用して低アレルゲンゼラチンの開発を目指してきました。我々は、ゼラチンアレルギー患者血清IgEのウシtype I コラーゲン各α鎖との反応性を比較し、患者血清IgE はコラーゲンの特定の部分のみに反応性を示すことを明かにしました (文献3)。
4.低アレルゲンゼラチンの開発
ニッピでは、ゼラチンの抗原部位を探索する研究から、α2鎖上のアレルギーの原因となる部分を特異的に分解することによって低アレルゲンゼラチンの開発を試みました。その結果、ペプシンによって抗原部位を持っているα2鎖が特異的に低分子化して、アレルギー患者血清IgEとの反応部位がほとんど消失することを発見しました(特願平11-255693、特願平10-173901:特許3153811)。本方法はウシゼラチンに限らず、ブタゼラチンの低アレルゲン化にも有効です。現在我々は、本方法を利用して、ヒト血清アルブミンよりも低コストで安全なゼラチン安定剤を市場に供給できるよう大量製造の準備に入っています。
II.ゼラチンの経口摂取とゼラチンアレルギー
さて一方、注射として体内に入ったゼラチンでなく、食事として取ったゼラチンによって引き起こされる症状についてはどうでしょうか。食事として入ったゼラチンによって感作されることは非常にまれです。またゼラチン含有ワクチンの接種によりアレルギー反応を示すゼラチンアレルギー患者にしても、その多くの患者はゼラチン含有食品でアレルギーを起こしません。
一般に食品は咀嚼され、胃内で分解が起こりその後腸においてさらに分解を受け吸収されていきます。経口摂取によるアレルギー症状の一般的な症状は、口周囲のかゆみ、発赤、蕁麻疹、紅斑等であり、まれにアナフィラキシー反応の例が知られています。我々のゼラチンの酵素消化による低アレルゲン化の研究の結果は、ヒトの消化器系酵素であるペプシン、トリプシン、およびキモトリプシンなどが極めて効率よくゼラチンの抗原性を失わせていることを示しており、ゼラチンの経口摂取によるアレルギー反応が口腔内での反応を除けば非常に少ないのは、このような人体に於ける消化の巧みな仕組みによると考えられます。
おわりに
ゼラチンはすべての動物が持っている蛋白質であり、動物が異なってもその構造は非常によく似通っています。そのため、これまで抗原性はほとんどないと考えられてきました。しかし特別な事情が重なると、ゼラチンでさえ抗原性を示すことがわかりました。しかし我々は、ゼラチンアレルギー研究を通じて、ゼラチンのアレルゲン性を低下させる方法を見いだし、食事において摂取するゼラチンを効率よく低アレルゲン化する生体の仕組みを明らかにしてきました。ゼラチンは人類数千年の歴史の中で安全性が確認されてきた物質であります。我々は、今後もゼラチンの長所を生かしつつ、製造法を改良してより安全で有益な物質として利用していきたいと考えています。
追記:
平成6年から7年にかけて新聞報道などでワクチン接種にともなうゼラチンアレルギーが頻発することに対して、当時報告されていた論文、ニッピが行っていた研究をもとに、「ワクチン接種にともなうゼラチンアレルギー」についてより良く知っていただくために、掲載いたしました。その後「全てのゼラチンアレルギーはゼラチン含有ワクチン接種でゼラチンに感作されたためである」とニッピが意図しない読解につながる可能性がある表現とわかりましたので、一部修正いたしました。全てのゼラチンアレルギーの原因がゼラチン含有ワクチン接種というわけではありません。(2009年02月)
文献1 筏義人編「生体分解性高分子」<実用編 コラーゲン系> アイピーシー (1999)
文献2 Sakaguchi M, Nakayama T, Fujita H et al. Minimum estimated incidence in Japan of
anaphylaxis to live virus vaccines including gelatin. Vaccine, 19, 431-436 (2000)
文献3 Sakaguchi M, Hori H, Hattori S et al. IgE reactivity to alpha1 and alpha2 chains of
bovine type 1 collagen in children with bovine gelatin allergy.
J Allergy Clin Immunol., 104, 695-699 (1999)
文献4 服部俊治ら「月刊フードケミカル」食品化学新聞社, Vol. 18, No. 8, 70-73 (2002)
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