バイオマトリックス研究所

バイオマトリックス研究所について

バイオマトリックス研究所は、ニッピ・グループのR&D機能を担当しています。2006年9月に、東京千住の本社から1時間ほどの茨城県取手市に移転しました。研究所では、人々の健康に関するさまざまな問題点を克服するために、研究開発を進めています。
世界中の研究者や製薬企業へ向けての試薬・実験器具や医療機器として製品化されることを目指しています。
さらに最近では、医療に近い分野の製品の開発にも力を入れています。
ヒトのからだの基本構成単位は細胞で、体重70kgの成人男性には約36兆個、60kgの成人女性には28兆個、32kgで10歳の子どもには約17兆個の細胞があると見積もられています。※注1
我々のからだを構成する細胞は血球系の細胞を除き、細胞同士、あるいは細胞の外に存在する不溶性の構造に接着しています。この細胞外の不溶性の構造が細胞外マトリックス Extracellular Matrix です。単に臓器や組織の形態を力学的に支持しているだけではなく、細胞と接着することによる化学シグナルで、細胞に対して、タンパク質合成、増殖、移動、分化など、組織や器官の恒常性を保つための制御機能を備えています。その主成分であるタンパク質がコラーゲン・ファミリーです。人体を構成するタンパク質全体の、25~30%がコラーゲンだといわれています。細胞外マトリックスは、静的ではなく、ダイナミックに合成と分解のバランスで、恒常性を保っています。

コラーゲンは、極めてユニークな性質をもったタンパク質です。コラーゲンの一次構造では、アミノ酸配列が規則的な-Gly-Xaa-Yaa-の繰り返しになり、グリシン(Gly)という側鎖が最も小さいアミノ酸が2残基おきに出現します。XaaとYaaの位置には、プロリン(Pro)が高頻度で出現します。タンパク質の典型的な二次構造としては、αヘリックスやβシート構造が知られていますが、コラーゲンは、それらの構造とは異なる構造をしています。1本のポリペプチド鎖は、ポリプロリン-II型様の左巻きらせん構造をとり、それが3本集まり、緩い右巻きのらせん構造を形成します。これがコラーゲンタンパク質の立体構造の基本です。
典型的な線維性のI型コラーゲンの場合は、1,014残基、338回の繰り返しの-Gly-Xaa-Yaa-配列を有し、約300 nm (0.3 µm) の長さにわたって、この構造が続きます。3本のポリペプチド鎖は、分子長軸方向に1残基ずつずれて会合しており、規則的に現れるグリシンが分子の中心軸付近に順に配置します。そしてXaaおよびYaaの位置の側鎖は、すべてが分子の外側に露出しています。
典型的なコラーゲンであるI型コラーゲンの場合、COL1A1およびCOL1A2遺伝子に由来するプロα1(I)鎖とプロα2(I)鎖のそれぞれ約1400個のアミノ酸からポリペプチド鎖が細胞内の小胞体で合成された後、プロα1(I)鎖が2本とプロα2(I)鎖1本がカルボキシ末端から、数百の翻訳後修飾を受けながら、ファスナーのように3本鎖らせん構造を巻いていき、細胞外に分泌されます。他のタンパク質ではほとんど見られないヒドロキシプロリン(Hyp)やヒドロキシリジン(Hyl)、さらにヒドロキシリジンにガラクトース、そしてグルコースが付加したユニークな翻訳後修飾がコラーゲンには存在しています。細胞外で組織に線維として蓄積するI型コラーゲンは、分子のN末端とC末端のプロペプチドと呼ばれる領域が、酵素によって切断されています。
コラーゲン分子表面の側鎖同士の相互作用によって、コラーゲン分子は、コラーゲン線維を作ります。この線維がさらに束になり、骨や歯、皮膚、腱や靭帯、目、動脈などの結合組織の骨格構造を作ります。コラーゲンの種類によっては、線維ではなく、メッシュワークを作るものや、細胞膜に組み込まれて存在するものもあります。そして、組織に含まれる細胞が正常に働くように相互にシグナルを送り合っています。
このコラーゲン・ファミリーのタンパク質の合成や分解の制御が乱れると、骨や軟骨、皮膚、その他の稀な遺伝性疾患、骨粗鬆症、線維症、がんなど、多くの疾患が引き起こされます。
ヒトの成長や発達、老化はもちろん、ほぼあらゆる疾患は、少なからずコラーゲンや細胞外マトリックス、結合組織と関連があります。私たちの体が大きくなる時も、老化で縮んでいく時も、マトリックスの合成と分解が関わっています。私たちの体に傷ができて自然に治る創傷治癒過程や血液凝固にも、コラーゲンは関与しています。コラーゲンが主成分の結合組織内では、さまざまな免疫機構により、病原体から守られているのです。
多くの器官の結合組織には、機能がまだ詳細に解明されていない多様な免疫に関する細胞や間葉系幹細胞、線維芽細胞が存在しています。これらがどのように細胞外マトリックスと関係して正常な機能が保たれているのか、また疾患を引き起こすのかを研究することは、今後の健康・医学の発展につながります。

現在のバイオ・メディカル分野の研究開発は、技術の進歩も加速化し、社内ですべての研究開発をこなすことは困難です。ニッピでは、国内および欧米やアジアの科学者・研究者との共同研究を積極的に進めています。バイオマトリックス研究所の研究員は、最先端の情報を得るために、国際学会や国内の学会にも積極的に参加しています。
バイオマトリックス研究所では、我々の生命と深く結びついているコラーゲンや細胞外マトリックスを通して、健康や医療に貢献することを目指しています。

※注1:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2303077120


共焦点レーザー走査型顕微鏡

円二色性分散計

組み換えラミニンゲル中のMDCK細胞のシスト

コラーゲンの構造

蛍光顕微鏡


研究所玄関ロビー


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