コラム

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コラーゲンマニアのつぶやき

体のなかのコラーゲンの役割~コラーゲン研究からわかること~

「ゼラチン」と「コラーゲン」

一般的に言う「コラーゲン」ってどんなイメージなんですかね。一般的なことばとして比べると、広辞苑では「コラーゲン」のことは一行ですませているのに対して「ゼラチン」の方がずっと詳しく書いてあります。まず「ゼラチン」があって、「コラーゲン」というのは「ゼラチン」になる元の物という認識で紹介されているようです。一方で、生物学的視点でみると、今度は「コラーゲン」がメインとして扱われ、いろいろと構造の事なども書いてあって、「ゼラチン」については「コラーゲンが変性したもの」というだけで基本的には元が同じものとして取り扱われます。

例えば、チャップリンの黄金狂時代という映画では革の靴を食べているシーンがあります。これでコラーゲンを食べていることになると言ったら、分かりますか?革靴を煮てゼラチンにして食べているということです。コラーゲンそのものではないんですけれども、「革靴に含まれるコラーゲンを熱にかけて変性したものを食べている」ということで、コラーゲンを食べているという話になるわけです。

歴史的には「ゼラチン」というものが先にあって、ギリシャ語とか、古い言葉ではゼラチンのことが「コル」で、コルの元であるということで「コラーゲン」、造語ですね。つまり「コラーゲン」の方が造語で「ゼラチン」が元。ジェル状のものが「ゼラチン」となります。ですが、生物学的には「コラーゲン」の方に意味があるので、「コラーゲン」の方の説明が主となります。

日常生活におけるコラーゲン

今日までの「コラーゲン」の歴史をちょっと振り返ってみましょう。

コラーゲンを含む素材としてまず使われたのは、皮、皮革としてでした。皮をタンニン、昔は木の渋ですね、でなめします。皮に木の渋を擦り込むと、コラーゲンが非常に溶けにくくなります。実験をすればすぐにわかるんですが、ゼラチンとかコラーゲンはタンニンを入れるとすぐに沈殿します。つまりすごく溶けにくくなるということで、タンニンを皮に擦り込んで丈夫にする。これは後々1800年代頃になるとクロムの方がもっといいなめし材だということがわかってきて、一般的には靴とか鞄にはクロムが使われています。が、自然回帰でまたタンニンも使用されています。こういう方法で皮を腐りにくくして皮から革になるわけです。

中国では、昔から「膠」の字を使っていまして、“こう”とか“にべ”とか呼んでおります。(“にべ”は日本語かな?)だからコラーゲンの「コル」とこの「膠」は音が似ているし、シルクロードに繋がったところでは同じ言葉を使っていたのかもしれないですけども、歴史的には相当古くから使っています。

現在も我々が行っている理科実験教室では、ゼラチンをみんなに触ってもらって、熱で溶かして、だんだん冷やすと固まるというのを見てもらい、そのあと手で触ってもらって実際とてもねちゃねちゃするのを確認してもらいました。ねちょねちょするということで、糊としてすごく使えます。ゼラチンは昔から糊として使っていまして、墨を集めて固める時にも膠を使っていますし、あと日本絵画は自然の顔料を使いますけど、紙に塗りつける時には糊としてゼラチン、膠を使って描くそうですから、そういう使い方が昔からあったということです。日本画の事を「膠彩画(こうさいが)」とも呼びます。

さらに日本では膠のことを“にかわ”と言いますけども、これはもともと皮のコラーゲンを煮だしたものがゼラチンですので、皮を煮たものとして“にかわ(煮皮)”という名前があり、和語として“にかわ”という言葉を昔から使っているようです。ちなみに糊、接着剤としては、マッチの頭の所の火薬を固めるとか、バイオリンのような木製楽器や木製の家具の接着剤とか(修理の時には温めるとはがせるため)、いろんな使い方をしています。

それから詳しいことは僕もよく知らないんですが、“阿膠(あきょう)”という名前で、漢方薬としても使われているそうです。これはロバの膠を使っているそうです。なんか婦人科系の出血傾向を止めるとか、そのような効果があるということは漢方関係のインターネット、本を見るとかいてありますので、何らかの薬効を中国人は認めてきたということはあるようです。

あとヨーロッパの方では(昔の)ゼラチン、これはただ煮ただけなので相当不純物も入っていて、色も茶色かったり、黒っぽかったりします。それがもっときれいなゼラチンになるとすごく透明ですので、それをきれいに採ってくる方法をいろいろ開発して、食用としてイギリスで特許が最初に出たのが150年くらい前らしいです。ババロアを作ったそうです。

それからもうちょっと経つと、写真用の乾板の感光剤をベースのフィルムにくっつけるために、やっぱり糊としてゼラチンが使われだします。この伝統はとても永くて、今はデジタルに変わっちゃいましたけど、現在のフィルムに至るまで、ゼラチンが感光剤を塗り付ける時に使われていて、感光剤が光に当って変化した時の粒子の保持とか、安定性とかが一番いいというということで、使われているそうです。

うちのニッピという会社も、当初フィルム会社にゼラチンを供給するために富士宮に工場を設立しました。ニッピがゼラチンを製造し始めたのは1935年頃からです。その後ゼラチンのカプセルだとか、墨をゼラチンに封入して押し付けると墨が出るという形の感圧式複写機とかに応用されました。現代では、もともとコラーゲン・ゼラチンが生体物質だということを利用して、注射薬の安定剤や、化粧品、健康飲料に使われています。さらに、今は再生医療の細胞の基材に使うなどの新しい使い方が段々増えてきています。ニッピでもこういった方面でも展開していきたいと考えています。

コラーゲン研究の歴史

コラーゲン研究の歴史において、前にも述べたように「コラーゲン」というのは後で作られた造語で、もともと存在していたのは「ゼラチン」でした。膠とかゼラチンという形で知っていたので、コラーゲンというものが実際にあるのか、ないのか。またゼラチンの元になるものが体にあるということは分かっていたのですが、それがどういうものかということはそれほど分かっていませんでした。

コラーゲン研究の歴史

古い歴史、古い論文などをみるとSchmittとか、Grossらがコラーゲン研究者としてとても有名です。こういう人達によって、電子顕微鏡を使って体のなかのコラーゲンを見ると、なんか線維状でしかも縞模様のあるものが見えることが発見され、こういうものが「コラーゲンとしてみえるよ」というようなことが、1940年代に随分と論文としてでています。その後、X線回析という方法で、縞模様はコラーゲン線維が周期的な構造をとっているためだとか、一個一個のコラーゲン分子についてもタンパク質のペプチド鎖が3本、縄のように集まった三重螺旋構造をしているのではないか、というようなことが研究されました。ちょうどこの頃、1952~54年はワトソンとクリックらによってDNAの螺旋構造が分かってきた頃で、たぶん世界的にもこういう微細構造に興味が持たれた頃なんだと思います。コラーゲンについてもX線回析を用いた構造研究が進みました。コラーゲン構造の研究として有名な論文は『Nature』に二つ出ていて、一つはClickとRich、(この二人はどちらも有名です。ちなみにClickはDNAの構造を解き明かしたクリックと同一人物です)もう一つはRamachandranとKarthaによって発表されています。

Clickの方が有名なんですけれども、実際のモデルとしてはRamachandranとKartha、のものの方が実際のコラーゲン構造に近いらしいです。この2名はインド人でして、ゼラチンって今でもインドのゼラチン工業は盛んですが、ゼラチン・コラーゲンの研究でも、わりと最近までインド人の研究者がたくさんいます。構造研究では多くインド人が出てきます。(ちなみに余談ですが、コラーゲン関連の酵素の研究だと、フィンランド人が結構出てくるなど、意外と地域性のある研究があちこちにあります。)

コラーゲン研究の歴史

構造についてですが、かつてはデンプンやセルロースの糖鎖と同じで、アミノ酸が酵素でつなげられて適当な長さになればコラーゲンのような構造になるのだろうというふうに考えている人もいました。それに対し、一定の構造があると言い出したのがGrossという人で、コラーゲン線維が一定のユニット分子からなるという概念を提示し、この概念上のユニットのことをTropocollagenと命名しました。しかしコラーゲンは当時不溶性タンパク質として知られており、生化学的な研究としては溶かさないとそれ以上の研究が進まないということから、ちゃんとしたコラーゲンをきちっと溶かして、それが一定の単位の物であるということを証明するというのはなかなか難しいことだと思われていました。

そのような状況下であった1956年、ニッピの西原富雄という研究者がマサチューセッツ工科大学Schmittに留学し、さらにハーバード大学のDortyという研究者のところでコラーゲン研究をしていました。彼はアメリカでの研究成果をもとに帰国後もコラーゲン研究を続け、コラーゲンを溶かすことができるということを見つけたのは1960年のことです。西原は蛋白質分解酵素を使ってタンパク質を溶かして精製するという方法でコラーゲンを溶かすことに成功しました。普通、蛋白質分解酵素を使ったらタンパク質は壊れますが、なぜかコラーゲンだけは3本鎖のきちっとした構造をとっていると壊れないため、このすごく突飛な方法で成功したのです。しかも、溶けてきたものは分子量約30万の分子であり、ただ適当な大きさに繋がったものではなくて、一定単位の分子であるということをここで証明したというのは、溶かしたこと以上に立派な功績だと思っています。ただ残念なことは、この西原の仕事については日本のマトリックス研究会での発表しか文献が残っておりません。詳しい論文を(権威のある学術雑誌に)書いていないのです。ただし特許は日本、アメリカ、ヨーロッパ等でとっていますので、そういう意味では権利は確保したけれども、論文的にはあまり有名にならなくて、惜しいことをしたなというふうに思います。

その後(1964)コラーゲンタンパク質を溶かす特別な酵素があるということが見つかりました。これはGross & Nagaiの仕事です。この永井は私が所属していた研究室の教授です。そのあと(1965)、コラーゲンという物が本当はもっと大きい形で採れてきて、最終的に体内の組織で沈着するときには30万の巨大な分子であるという、生合成系を明らかにしたのが北欧のKivirikko & Prockopのグループです。Prockop今はアメリカで研究を続けています。その後、コラーゲンの遺伝子研究が始まり、今ではコラーゲンは細胞接着としても非常に重要とか、いろんなことが分かってきております。1985年当時では、調べられていた遺伝子の中ではコラーゲンが一番大きい遺伝子だったと思います。1970年ごろまでにもコラーゲンにいくつか種類があることが見つかっていましたが、コラーゲン遺伝子が分かった後はコラーゲンにはさらにいろいろなタイプがあることが分かり、またコラーゲンをとってくるよりも遺伝子を調べた方が早いということから、いろんな遺伝子をどんどん解明していった結果、現在は29型までのコラーゲンがあることがわかりました。ともかく生体内で重要な役割を持っているようで、なくなると病気になったりする物が結構ありますから、微量しかないマイナーなコラーゲンでもそれぞれ重要なことをしているということがわかりつつあります。

コラーゲンの役割

コラーゲンはゼラチンの元で、体の中で接着剤のような働きをします。

体にはいろんな組織があって、そのうちの骨とか、皮膚、それからアキレス腱、こういうところにはコラーゲンがいっぱいあります。前にも話した理科実験教室では、次の写真のような骨の例を取り出して、実際に見て触ってもらって実感していただきました。

コラーゲンの役割
N

コラーゲンの役割
Collagen

コラーゲンの役割
Ca

3種類の骨があります。左が普通の骨です。(「触れるかな?」というと小学生はちゃんと触りましたね。)すごく丈夫な骨です。普通「骨」と言うと、何からできているか。カルシウムという答えが返ってきます。では、カルシウムを見てみようということで、骨をカルシウムだけにしてみたのが一番右です。逆にコラーゲンだけにしてみたのが中央です。これは骨の形をしていますがつるりとした感触です。

さて、骨はコラーゲンとカルシウム(とその他)でできているけど、それぞれ何をしているかというのは想像できるかなということであります。右(カルシウム骨)は硬いけど、擦るとボロボロ落ちてきます。無機質ですから、やっぱり硬いけどすごくもろい。中央(コラーゲン骨)はソフト。しなやかな感じになっていまして、この右(カルシウム骨)の硬いのをコラーゲンで埋めることで、しなやか、しかもなかなか折れない骨の構造ができています。さきほどゼラチンを糊として使うと言いましたが、生体内でもコラーゲンは骨の元となるカルシウムや細胞をちゃんとくっつける、糊的な役割をしています。生きた骨ではこの中に細胞がいっぱい生きています。細胞が生きていくために、細胞と細胞をくっつけるための糊になっているのです。細胞がくっつかないと体はバラバラになってしまいます。体ができているというのはそういう糊(コラーゲン等)の役割が大事だということが言いたくてこの骨の例を出しました。カルシウムだけだと硬くて、でも折れやすい。コラーゲンだけだとしなやかだけど柔らか過ぎる。これが両方とも混ざって重要な役割をしています。非常に骨がしっかりするのに重要なので、実際にコラーゲンがダメになるといろんな病気が生じます。この辺は医療関係者の方が詳しいと思います。

コラーゲンに関係する病気

コラーゲンがちゃんとできないで骨がバキバキに折れてしまう骨がもろくなる病気とか、それから関節が異常に曲がる病気とかもあります。肌の皮膚が異常に延びる病気もあります。他の組織のコラーゲンも弱いと、血管が弱かったり、心臓にダメージがあったり、そういうことで病気になるということがありまして、当然コラーゲンがちゃんとしてないと病気になります。

そういうビョーンとしたような皮膚に出る症状は「Ehlers-Danlos syndrome(エーラス・ダンロス症候群)」と言い、これにはいろんなタイプがあります。コラーゲンそのものがダメだったり、コラーゲンを作る酵素がダメだったり、コラーゲンをちゃんと丈夫にするためのちょっとした最後の一工夫がうまくいかなかったりとか。

また、骨が弱くなるのは「Osteogenesis Imperfecta(骨形成不全症)」という病気があります。これはやはりコラーゲンがうまく作れないために起こります。

それから、コラーゲンを逆に異常にたくさん作っちゃうような病気で「線維症」があります。「肺線維症」とか、「肝臓の線維症」とか、「強皮症」とかいう病気がそれにあたります。これはコラーゲンが多いため、強皮症とか膠原病とか、そういう名前が付けられていますが、コラーゲンが悪者というよりも、たぶん正常に働ける細胞がダメになって、そこにしょうがないからコラーゲンが増えてきて、結果的にコラーゲンがいっぱいになっちゃった症状が見られるので線維症と呼んでいるのであって、コラーゲンは仕方なくその隙間を埋めているような気もします。この辺についてお医者さん的にどういうふうに考えているかは、いろんな人がいるでしょう。コラーゲンを減らせば治るかどうか、そこも微妙で、減らした上でちゃんとした肝臓なら肝臓の細胞、腎臓なら腎臓の細胞を増やすことが大事ではないかなとは思います。

関節のコラーゲンを壊しちゃうという病気もあって、これはリウマチといいます。関節の表面のツルツルしている所はコラーゲンで、骨の硬い所とは別のタイプのⅡ型というコラーゲンでできています。これで関節同士がこすれずにスムーズに動くのですが、これがどんどん壊れちゃって関節の摩耗が非常に強くて痛いとか、癒着しちゃったりするのがリウマチです。

癌の転移にも関係しています。それから腎臓、これはおしっこを作る所ですけれども、ここではⅣ型のコラーゲンというのが線維状でものすごい網目状の構造を作って、そこが血液をろ過する構造を作っているんですけど、こいつがダメになる腎臓の病気「Alport syndrome(アルポート症候群)」とか、いろんな病気があります。

また皮膚にもコラーゲンがいっぱいあります。表皮と真皮、またその間にも基底膜というコラーゲンがありますけれども、その表皮と真皮を繋ぎとめているコラーゲンというのもあります。皮膚は表皮と真皮と別のものが張り合わされた組織です。そこを繋ぎ合わせているいろんな組織の中にはボタンみたいに止めている所もあって、そういうのにⅦ型のコラーゲンというのが働いています。これがダメになると酷い水泡症という水ぶくれだらけで大変な病気になるなど、その他いろんな病気に関係します。

コラーゲンの構造

実際に人体にあるコラーゲンを電子顕微鏡で見ると、左のような線維構造が見えます。この線維構造の中にコラーゲン分子(右の模式図)がたくさん並んでいます。このコラーゲン分子自体はすごく細長い分子からできていまして、長さが3メートル(実際は300nm)だとすると幅は2センチメートル(実際は2nm)ぐらいの、すごく細長いものが3本鎖螺旋に巻いている。

コラーゲンの構造

そういう分子がいっぱい集まってできています。

この一本一本はタンパク質でアミノ酸の繋がりです。そのアミノ酸の繋がりを調べると、ら旋部分はアミノ酸が1,014個並んでいます。特徴的なのはこの1,014個の領域は絶対間違えずに、3つ目にG、グリシンというアミノ酸があることです。また、プロリンというアミノ酸も非常に目立ちます。しかもこのプロリンの中でも、特徴的に並ぶグリシンから2つ目のプロリンというのは、ハイドロキシプロリンという、他のタンパク質ではほとんど見られないアミノ酸になっています。このハイドロキシプロリンですが、遺伝子にはハイドロキシプロリンというアミノ酸を指定するコードはありません。一旦プロリンとしてできたタンパク質、このコラーゲンの場合には、あとでこの場所を見つけてプロリンというアミノ酸にOH、水酸基をくっつけるという働きをする酵素があって、ハイドロキシプロリンを作っていきます。ハイドロキシプロリンの量がたくさんあることで、3本鎖というのがうまく安定しているというのは結構昔から知られている話です。

普通、動物が違うとタンパク質のアミノ酸配列には、アミノ酸の入れ替えが随分多いものです。ですが、このコラーゲンというのは種が違ってもかなり似ていて、ウシ、ヒト、マウスとニワトリ間のアミノ酸配列についてデータベースを利用して調べてみたところ、95%くらいの同一性がみられました。しかもアミノ酸の数も1,014個と全く一緒になっています。要するにちゃんとした3本鎖構造を保つためには非常に規則が多くて、ちょっとでも外れると進化的にうまくいかないということがあるのだと思います。非常によく配列が保存されています。

医療用に使う時にも、普通は、他の動物の物を体内に注射したりすると、免疫反応でアレルギーを起こしたりしますが、コラーゲンの場合非常に近くて、ヒトにウシのコラーゲンを使ったとしても、ほとんど免疫拒絶などはないということが知られています。医療用には本当は人のを使った方がいいのでしょうけど、それが簡単に手に入らない時には、ウシとかブタのを使ってもほとんどそういう影響がないということは知られています。

コラーゲン分子の様々な形態

コラーゲンというのは一個一個の分子はこのような形をしています。

コラーゲン分子の様々な形態

温度を上げていくとバラバラ、3本鎖構造がほどけてゼラチンというものになります。さらに壊していくとゼラチンのペプチドになりますが、これはコラーゲン由来のペプチドですので、コラーゲンペプチドという名前でも呼ばれています。この状態になると非常によく水に溶けるので飲料に随分使われています。コラーゲン飲料というものにはこれが入っています。分子量30万のコラーゲン分子の状態ではほとんど溶けないのですが、ニッピではこれを溶かしたものを化粧品として販売しています。そして生体内ではこのコラーゲン分子がずっと並んで線維状のものを作るということになります。この分子がたくさん並んで束になっているという状態です。

様々な動物のコラーゲンの変性温度

ハイドロキシプロリン、プロリンに水酸基OHがくっついたものですが、これがコラーゲンに特徴的です。特にこのハイドロキシプロリンがどのくらいあるかによってコラーゲンの性質がすごく変わってきます。前述の3本鎖がほどけてしまう温度というのは、円偏光二色性という一定の測定法があって、溶液温度を上げていくと次のグラフのようになります。

様々な動物のコラーゲンの変性温度

縦軸が3本鎖のへリックスの巻き具合ですが、横軸の温度が上がると巻いていたのがだんだんなくなっていきます。こういう温度を上げながら光をあてて3本鎖構造を調べるという方法です。これで調べてやりますと、一番低いのがシャケ(Salmon)ですね。20度くらいでほどけちゃいます。それからヌタウナギ(Hagfish)というのは25度くらい。サメ(Shark)が30度前後、カエル(Frog)が35度ぐらい、ウシ(Bovine)が42度。ニワトリ(Chick)がウシとほぼ同じかちょっと高いくらいです。

ほどける温度は、ハイドロキシプロリンの量と相関しています。これが少ないと変性温度が低い。ニワトリが一番変性温度が高くて、哺乳類は37度位の体温ですけども、体温よりちょっと上あたりに変性温度があります。

人が熱出して、42度くらいが限界というのはコラーゲンの限界でもあって、関係あるのかもしれません。

シャケとか、寒い所にいるものは低い温度で変性します。だから普通に食卓に上がる頃にはコラーゲンは変性しているのかな。カエルとかは変温動物ですけど、たぶん生きていくための限界の温度というのはこの辺にあるのではないかなというふうに思われます。

一般的に海の物だと生きている温度に近い所にその動物のコラーゲンの変性温度があります。でも淡水魚はわりと高めです。これは生きている環境の差で、海の物は温度によって北へ南へ逃げられるけれども、淡水魚は逃げられないから高い方に順化していると思います。コラーゲンの変性温度を遺伝子だけで決めると生活環境に対応できないので、遺伝子配列では規定されない、ハイドロキシプロリンの含有量で変性温度が決まるのは、ハイドロキシプロリンを作る酵素活性を調節して環境に合った、コラーゲンの安定性を決めているように思われます。

様々なタイプのコラーゲン

なぜかコラーゲンはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型と、ローマ数字で示すのが習慣になっていまして、2013年1月現在はⅩⅩⅨ型まで知られています。名前の付いたいきさつもいろいろありますが、1940年代、50年代ではコラーゲンと言えばⅠ型しかありませんでした。1962年にミラーという人が軟骨から違うコラーゲンを見つけてⅡ型コラーゲンという名前をつけました。Ⅱ型があるのなら、今までのはⅠ型にしようかということでⅠ型にして、そのあと皮膚からさらに違うコラーゲンが見つかってⅢ型としました。次は基底膜でⅣ型を見つけて、Ⅴ型見つけ、というような順番で発見した順番に名前がついていきました。Ⅵ型、Ⅶ型ぐらいまではコラーゲンタンパク質として見つかってきています。

ちょうど私が大学にいた頃(1980年初め)は確かⅤ型か、Ⅵ型かぐらいまでしかわかっていなかったのですが、そのあと爆発的にコラーゲンの型が増えてきました。Ⅷ型以降はたぶん先に遺伝子が見つかって、そのあとに今はノックアウト動物とか、いろんなものができてその遺伝子が無いとどういう病気になるかを見たりして、その遺伝子がコードするタンパク質が持つ機能を調べるというようなことが進んでいます。

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

細胞のコラーゲン認識

コラーゲン研究の歴史では1970年代くらいの所まで話しましたが、そのあとコラーゲンとしていろいろわかってきたことは、細胞接着基質、つまり体の中でも糊の役割をします。ただ単に糊のようにくっつけるのではなく、細胞がコラーゲンを見わけて、そこがきちんとコラーゲンだということを細胞がわかっていて、細胞の方がコラーゲンにくっついていくという構造の仕組みがわかってきたというのが80年代後半のことになります。

細胞のコラーゲン認識

例えば、コラーゲンの上で皮膚の細胞をとってきてまいてあげると、皮膚の表皮細胞というのがコラーゲンの上にビタッとくっつきます。動画でその様子を12時間ぐらい追ってみますと、細胞はコートしたコラーゲンにくっついて動いて、もっと経つと細胞がどんどん増えてきて、細胞がきっちりコラーゲンにくっついて広がるという様子が見えます。コラーゲンを塗っていない表面上では細胞はずっと丸い形のままでいて、最後は死んでしまうものがかなりあって、コラーゲンがないとうまく細胞がくっつかずしかも生き残れないということがわかってきました。

これはお皿の上にコラーゲンでNIPPIと書いて細胞をまいてやったところです。コラーゲンが塗られたところだけに細胞が集まってきています。細胞上にはちゃんとしたコラーゲンセンサー装置があります。インテグリンという蛋白質で、これは1980年代に見つかったものですが、細胞の表面にあるコラーゲンを察知することができます。細胞はこのアンテナでコラーゲンを見分けて、くっつきます。

お皿に塗ったコラーゲンを、変性してしまったゼラチンにしますと、このアンテナが出てこなくて、すごくくっつきが悪くなります。アンテナもほとんど出てこなくて、細胞自身でくっつけるものを何とか絞り出して、出して、それをお皿の表面にくっつけてから自分が何とか生きてくっついているという状態です。初めからコラーゲンがあると、そこに細胞がくっついて広がるということになります。

何かにくっつく宿命の細胞と細胞外マトリックス

人間の体(の細胞)というのは、何かにくっついていないと生きていけないというのが宿命で、くっつかずに生きていけるのは血液の中に入っている血球とか、それぐらいで他のものは何かにくっついていないと生きていけないし、増えられないというのがあるので、くっつくというのはすごく大事な体の細胞の性質、性であるということになります。

くっつく相手としてはいろんなものが知られていて、このコラーゲンもありますけど、その他にもラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、その他いろんなタンパク質など、細胞外マトリックスと一般的に呼ばれているのがあって、コラーゲンもその仲間です。アンテナになる分子というのもいろんな分子があって、いろんな組み合わせで何にくっつくかというのが決まってきて、細胞の環境でどれにくっつきましょうというのを決めてきたりするということになっています。

バイオマトリックス研究所の「マトリックス」ってなんだろう

バイオマトリックス研究所の「マトリックス(Matrix)」の意味についてお話ししたいと思います。「Matrix」は、もともとラテン語由来の言葉で、「mater」つまり母と同じ語源です。母性に関する言葉で子宮の意味もあります。日本語では基質と訳されていますが、マトリックスという言葉には日本語訳では表しきれない、命を生み出し育むものというもっと生き生きしたイメージが重なります。「mater」といえば西洋人は聖母マリアとか母親のことを思い浮かべるはずです。私達が取り扱っているコラーゲンやラミニンは細胞外マトリックスと呼ばれ、細胞の外で生きた細胞を守り支えています。このことから、バイオマトリックス研究所の「マトリックス」には「命ある細胞を守り育てる物」という思いを込めています。