今日までの「コラーゲン」の歴史をちょっと振り返ってみましょう。
コラーゲンを含む素材としてまず使われたのは、皮、皮革としてでした。皮をタンニン、昔は木の渋ですね、でなめします。皮に木の渋を擦り込むと、コラーゲンが非常に溶けにくくなります。実験をすればすぐにわかるんですが、ゼラチンとかコラーゲンはタンニンを入れるとすぐに沈殿します。つまりすごく溶けにくくなるということで、タンニンを皮に擦り込んで丈夫にする。これは後々1800年代頃になるとクロムの方がもっといいなめし材だということがわかってきて、一般的には靴とか鞄にはクロムが使われています。が、自然回帰でまたタンニンも使用されています。こういう方法で皮を腐りにくくして皮から革になるわけです。
中国では、昔から「膠」の字を使っていまして、“こう”とか“にべ”とか呼んでおります。(“にべ”は日本語かな?)だからコラーゲンの「コル」とこの「膠」は音が似ているし、シルクロードに繋がったところでは同じ言葉を使っていたのかもしれないですけども、歴史的には相当古くから使っています。
現在も我々が行っている理科実験教室では、ゼラチンをみんなに触ってもらって、熱で溶かして、だんだん冷やすと固まるというのを見てもらい、そのあと手で触ってもらって実際とてもねちゃねちゃするのを確認してもらいました。ねちょねちょするということで、糊としてすごく使えます。ゼラチンは昔から糊として使っていまして、墨を集めて固める時にも膠を使っていますし、あと日本絵画は自然の顔料を使いますけど、紙に塗りつける時には糊としてゼラチン、膠を使って描くそうですから、そういう使い方が昔からあったということです。日本画の事を「膠彩画(こうさいが)」とも呼びます。
さらに日本では膠のことを“にかわ”と言いますけども、これはもともと皮のコラーゲンを煮だしたものがゼラチンですので、皮を煮たものとして“にかわ(煮皮)”という名前があり、和語として“にかわ”という言葉を昔から使っているようです。ちなみに糊、接着剤としては、マッチの頭の所の火薬を固めるとか、バイオリンのような木製楽器や木製の家具の接着剤とか(修理の時には温めるとはがせるため)、いろんな使い方をしています。
それから詳しいことは僕もよく知らないんですが、“阿膠(あきょう)”という名前で、漢方薬としても使われているそうです。これはロバの膠を使っているそうです。なんか婦人科系の出血傾向を止めるとか、そのような効果があるということは漢方関係のインターネット、本を見るとかいてありますので、何らかの薬効を中国人は認めてきたということはあるようです。
あとヨーロッパの方では(昔の)ゼラチン、これはただ煮ただけなので相当不純物も入っていて、色も茶色かったり、黒っぽかったりします。それがもっときれいなゼラチンになるとすごく透明ですので、それをきれいに採ってくる方法をいろいろ開発して、食用としてイギリスで特許が最初に出たのが150年くらい前らしいです。ババロアを作ったそうです。
それからもうちょっと経つと、写真用の乾板の感光剤をベースのフィルムにくっつけるために、やっぱり糊としてゼラチンが使われだします。この伝統はとても永くて、今はデジタルに変わっちゃいましたけど、現在のフィルムに至るまで、ゼラチンが感光剤を塗り付ける時に使われていて、感光剤が光に当って変化した時の粒子の保持とか、安定性とかが一番いいというということで、使われているそうです。
うちのニッピという会社も、当初フィルム会社にゼラチンを供給するために富士宮に工場を設立しました。ニッピがゼラチンを製造し始めたのは1935年頃からです。その後ゼラチンのカプセルだとか、墨をゼラチンに封入して押し付けると墨が出るという形の感圧式複写機とかに応用されました。現代では、もともとコラーゲン・ゼラチンが生体物質だということを利用して、注射薬の安定剤や、化粧品、健康飲料に使われています。さらに、今は再生医療の細胞の基材に使うなどの新しい使い方が段々増えてきています。ニッピでもこういった方面でも展開していきたいと考えています。