コラム

COLUMN
コラム

コラーゲンマニアのつぶやき

体のなかのコラーゲンの役割~コラーゲン研究からわかること~

コラーゲンって何だろう
「ゼラチン」と「コラーゲン」

皆さんが考える「コラーゲン」ってどんなイメージなんですかね。
一般的なことばとして比べると、広辞苑(第7版)では「コラーゲン」のことは3行で簡単に説明しているのに対して「ゼラチン」の方が詳しく(8行も)書いてあります。まず「ゼラチン」があって、「コラーゲン」というのは「ゼラチン」になる元の物という認識で紹介されているようです。
一方、生物学的視点でみると、今度は「コラーゲン」がメインとして扱われ、いろいろと構造の事なども書いてあって、「ゼラチン」については「コラーゲンが変性したもの」というだけで基本的には元が同じものとして取り扱われます。

例えば、チャップリンの『黄金狂時代※1』という映画では革の靴を食べているシーンがありますが、これでコラーゲンを食べていることになると言ったら、わかりますか?
コラーゲンそのものではないのですが、革靴を煮て「革靴に含まれるコラーゲンを熱にかけて変性したもの(₌ゼラチン)を食べている」ことから、コラーゲンを食べているというはなしになるわけです。

歴史的には「ゼラチン」を意味する言葉が先にあって、ギリシャ語とか、古い言葉で糊を意味するのが「コル」で、コルを生じさせるものということでギリシャ語の「~から生まれた」という意味に当たる語尾のゲンをつけて「コラーゲン」、造語ですね。つまり言葉としては「コラーゲン」の方が後から造られて「ゼラチン」の方が先にあった。
ですが、生物学的には「コラーゲン」の方に意味があるので、ぼくのコラムでは「コラーゲン」の方の説明が主となります。

※1 黄金狂時代(おうごんきょうじだい、The Gold Rush): 1925年に製作されたアメリカ映画で、チャールズ・チャップリンが監督・脚本・主演を務めた喜劇映画。
「コラーゲン」という日本語の誕生

英語の「collagen」をカタカナでコラーゲンと名付けたのは、東京大学の林利彦名誉教授(現ニッピ バイオマトリックス研究所 特別客員研究員)の師匠である、東京大学理学部生化学科の野田春彦名誉教授です。コラーゲンの生物物理学研究のパイオニアの一人です。
「collagen」は、英語やフランス語だとカタカナでは“カラジェン”、ドイツ語だと“コラゲン” に近い発音ですが、野田先生が、日本語では「コラーゲン」と長音記号を入れる呼び方にしたそうです。

日常生活におけるコラーゲン
皮(skin)から革(leather)へ

今日までの「コラーゲン」の歴史をちょっと振り返ってみましょう。

コラーゲンを含む素材としてまず使われたのは、動物から剥(は)いだ皮を鞣(なめ)した皮革としてでした。
皮をタンニン(木の渋とかですね)で鞣します。皮に木の渋を擦り込むと、コラーゲンが非常に溶けにくくなります。

実験するとすぐにわかりますが、ゼラチンとかコラーゲンの溶液はタンニンを入れるとすぐに沈殿します。つまり、すごく溶けにくくなるということで、タンニンを皮に擦り込むことで丈夫にしているのです。これは、1800年代頃になるとクロムの方がもっといい鞣し材(なめしざい)だということがわかってきて、現在、一般的には靴とか鞄(かばん)にはクロムが使われていますが、自然回帰でまたタンニンも使用されています。
こういう方法で皮を腐りにくくして、皮(skin)から革(leather)になるわけです。 

中国におけるコラーゲン(胶原)

中国の簡体字で、コラーゲンは「胶原」と書きます。「胶」の字を繁体字変換すると「膠」となります。

中国では、昔から「膠」の字を使っていまして、音読みだと“こう”ですね。コラーゲンの「コル」とこの「膠」は音が似ているし、シルクロードに繋がったところでは同じ言葉を使っていたのかもしれないですけども、歴史的には相当古くから使っています。
詳しいことはぼくもよく知らないんですが、膠は“阿膠(あきょう)”という名前で、漢方薬(中医薬といった方がいいかな)としても使われているそうです。「阿」は現在の山東省西部の東阿県(現在は済南市平陰県の東阿鎮)が膠の原料の産地とされていたことによるそうです。

婦人科系の出血傾向を止めるとか、そのような効果があるということは漢方関係のウェブサイトや本を見るとかいてありますので、何らかの薬効を中国人は認めてきたということでしょう。

ロバ以外にも、ウマやウシなども使用されることがあるそうです。ロバは効くけれど、ウマでは効かないとは思えませんし。でも漢方としてはロバにこだわっていたようです。ロバでは(費用が)高すぎたからか他の動物を使ったものもあるようです。

生活の中で使われてきたゼラチン

以前ぼくが行っていた理科実験教室では、ゼラチンをみんなに触ってもらって、熱で溶かして、だんだん冷やすと固まるというのを見てもらい、そのあと手で触ってもらって、とても“ねちゃねちゃ・ねばねば”するのを実際に確認してもらいました。
つまり、ゼラチンはネバネバするということから糊として使えます。

ゼラチンは昔から糊として使われていまして、墨を集めて固めるときにも膠を使っていますし、日本絵画は岩絵具(天然成分を粉砕してつくった顔料)を使いますけど、紙に塗りつけるときには糊としてゼラチン、膠を使って描くそうですから、そういう使い方が昔からあったということです。日本画のことを「膠彩画(こうさいが)」とも呼びます。

日本の訓読みでは「膠」を“にかわ”と読みます。これはもともと皮のコラーゲンを煮だしたものがゼラチンですので、皮を煮たものとして“にかわ(煮皮)”という名前があり、和語としては「にかわ」という言葉を昔から使っているようです。
ちなみに、糊・接着剤としては、マッチの頭の所の火薬を固めるとか、バイオリンのような木製楽器や木星の家具の接着剤とか(修理のときには温めるとはがせるため)、いろんな使い方をしています。

ヨーロッパでは、1700年頃からゼラチンの工業的な生産が始まりました。
昔のゼラチンは、ただ煮ただけなので相当不純物も入っていて、色も茶色かったり、黒っぽかったりします。それがもっときれいなゼラチンになるとすごく透明ですので、それをきれいに採ってくる方法をいろいろ開発して、1800年代から食用のゼラチンがつくられるようになったようです。

写真用ゼラチンから始まったニッピのゼラチン事業

1900年代になると写真乾版の感光材をベースのフィルムにくっつけるために、糊としてゼラチンが使われだします。この伝統はとても長くて、今はデジタルに変わっちゃいましたけど、現在のフィルムに至るまで、ゼラチンが感光剤を塗り付けるときに使われていて、感光材が光に当たって変化したときの粒子の保持とか、安定性とかが一番いいというということで、使われているそうです。

ニッピのゼラチン事業部は、今ではさまざまな用途向けのゼラチンを取り扱っていますが、当初はフィルム会社にゼラチンを供給するために富士宮に工場を設立しました。ニッピがゼラチンを製造し始めたのは1936年頃からです(富士宮での製造は1940年から)。
その後、ゼラチンのカプセルだとか、墨をゼラチンに封入して押し付けると墨が出るという形の感圧式複写機とかに応用されました。現代では、もともとコラーゲン・ゼラチンが生体物資だということを利用して、注射の安定剤とか、化粧品に使うとか、健康飲料などに使われています。さらに、今は再生医療の細胞の基材に使うなどの新しい使い方が段々増えてきています。
ニッピでもこういった方面でも展開していきたいと考えています。

コラーゲン研究の歴史
1940-50年代のコラーゲン研究

コラーゲン研究の歴史において、前にも述べたように「コラーゲン」というのはあとでつくられた造語で、もともと存在が知られていたのは「ゼラチン」でした。「膠」や「ゼラチン」という形で知っていたので、コラーゲンというものが実際にあるのか、ないのか。また、ゼラチンの元になるものが体にあるということは分かっていたのですが、それがどういうものかということはそれほど分かっていませんでした。

コラーゲン研究の歴史

古い歴史、古い論文などをみると Francis O. Schmitt とか、Jerome Gross らがコラーゲン研究者として有名です。こういう人達によって、電子顕微鏡を使って体の中を見ると、線維状でしかも縞模様のあるものが見えることが発見され、こういうものが「コラーゲンとしてみえるよ」というようなことが、1940年代に随分と論文で報告されています。

その後、X線回析という方法で「縞模様はコラーゲン線維が周期的な構造をとっているため」だとか、コラーゲン分子が「3本のポリペプチド鎖が縄のように集まった三重らせん構造をした分子量約30万の大きさである」ことなどが研究されて分かってきました。それまでは、分子量の決まった一つの分子であるかどうかもはっきりしていなかったのです。ちょうどこの頃、1952~54年はワトソンとクリックらによってDNAのらせん構造が分かってきた頃で、たぶん世界的にもこういう微細構造に興味が持たれた頃なんだと思います。
コラーゲンについてもX線回析を用いた構造研究が進みました。コラーゲン構造の研究として有名な論文は『Nature』に二つ出ていて、一つは Francis Crick と Alexander Rich (この二人はどちらも有名です。ちなみに Crick はDNAの構造を解き明かしたクリックと同一人物です)、もう一つは Gopalasamudram Narayanan Ramachandran と Gopinath Kartha によって発表されています。

Crick の方が有名なんですけれども、実際のモデルとしては Ramachandran と Kartha のものの方が実際のコラーゲン構造に近いらしいです。この方々はインド人でして、ゼラチンって今でもインドのゼラチン工業は盛んですが、ゼラチン・コラーゲンの研究でもインド人の研究者がたくさんいます。構造研究では多くインド人が出てきます。(余談ですが、コラーゲン関連の酵素の研究だと、フィンランド人が結構出てくるなど、意外と地域性のある研究があちこちにあります。)

さらに、コラーゲンのらせんの巻き方(ピッチ)については、農工大学の奥山健二先生の研究によってさらに正確なものになりました。日本のコラーゲン研究者の貢献度も高いですね。

1960年頃、ニッピの西原富雄の功績

コラーゲン研究の歴史

構造についてですが、かつてはデンプンやセルロースの糖鎖と同じで、アミノ酸が酵素でつなげられて適当な長さになればコラーゲンのような構造になるのだろうと考えている人もいました。それに対し、一定の構造があると言い出したのが Schmitt で、コラーゲン線維が一定の大きさのユニット分子からなるという概念を提示し、この概念上のユニットのことを Tropocollagen と命名しました。
しかし、コラーゲンは当時不溶性タンパク質として知られており、生化学的な研究としては溶かさないとそれ以上の研究が進まないということから、ちゃんとしたコラーゲンをきちっと(ゼラチン化しないで)溶かして、それが一定の単位の物であるということを証明するというのはなかなか難しいことだと思われていました。

そのような状況下であった1956年、ニッピの西原富雄(にしはらとみお)という研究者がマサチューセッツ工科大学 Francis Schmitt の研究室に留学し、さらにハーバード大学の Paul Mead Doty という研究者のところでコラーゲン研究をしていました。彼はアメリカでの研究成果をもとに帰国後もコラーゲン研究を続け、コラーゲンを大量に動物組織から溶かすことができるということを見つけて特許出願したのが1960年のことです。

西原は、タンパク質分解酵素を使ってタンパク質を溶かして精製するという方法でコラーゲンを大量に溶かすことに成功しました。
通常、タンパク質分解酵素を使ったらタンパク質は分解されて壊れてしまいますが、なぜかコラーゲンが3本鎖構造を持った未変性状態だと温度が低いと分解酵素で分解されず、コラーゲンの形を保って溶かすことができたのです。これは驚きの逆転発想でした。しかも、溶けてきたものは分子量約30万の分子であり、ただ適当な大きさに繋がったものではなくて、一定単位の分子であるということをここで証明したというのは、溶かしたこと以上に立派な功績だと思っています。

ただ残念なことは、この西原の仕事については日本のコラーゲン研究会(後にマトリックス研究会と改称し、現在の日本結合組織学会と統合された)での発表しか文献が残っておりません。詳しい論文を(権威のある学術雑誌に)書いていないのです。
特許は日本、アメリカ、ヨーロッパ等でとっていますので、そういう意味では権利は確保したけれども、論文的にはあまり有名にならなくて、惜しいことをしたなというふうに思います。

1980年代、遺伝子クローニング技術の普及

1962年、Jerome Gross と Charles M. Lapiere がオタマジャクシからコラーゲンを分解する活性を見出しました。その酵素を精製して、特別な分解方法を見出したのは、Nagai, Lapiere, & Gross の仕事です。この Nagai(永井)は、ぼくが所属していた研究室の教授です。
このあと、コラーゲンという物が本当はもっと大きい形で採れてきて、最終的に体内の組織で沈着するときには30万の巨大な分子であるという、生合成系を明らかにしたのが主にフィンランドの Kari Kivirikko とアメリカの Darwin Prockop のグループです。

その後、コラーゲンの遺伝子研究が始まり、今ではコラーゲンは細胞接着としても非常に重要とか、いろんなことが分かってきております。
1985年当時では、調べられていた遺伝子の中ではコラーゲンが一番大きい遺伝子だったと思います。
1970年頃までにも、コラーゲンにはいくつかの種類があることが見つかっていましたが、コラーゲン遺伝子が分かった後は、コラーゲンにはさらにいろいろなタイプがあることが分かり、また、遺伝子クローニング技術の普及と相まってコラーゲンをとってくるよりも遺伝子を調べた方が早いということから、いろんな遺伝子をどんどん探索していった結果、現在は28型までのコラーゲンがあることがわかりました。(これを最初に書いた頃に29型の論文が出たのですが、それは結局6型の変異型ということがわかり2025年3月現在は28種類です)
ともかく生体内で重要な役割を持っているようで、なくなると病気になったりする物が結構ありますから、微量しかないマイナーなコラーゲンでもそれぞれ重要なことをしているということがわかりつつあります。

コラーゲンの役割
体の中でのコラーゲンの役割

コラーゲンはゼラチンの元で、体の中で接着剤のような働きをします。

体にはいろんな組織があって、その中の骨とか、皮膚、アキレス腱、こういうところにはコラーゲンがいっぱいあります。ニッピが以前実施した理科実験教室では、次の写真のような骨の例を取り出して、実際に見て触ってもらって実感していただきました。

コラーゲンの役割
N

コラーゲンの役割
Collagen

コラーゲンの役割
Ca

3種類の骨があります。「N」が普通の骨です。「触れるかな?」というと小学生はちゃんと触りましたね。すごく丈夫な骨です。「骨は何でできている?」と問うと「カルシウム」という答えが返ってきました。それでは、カルシウムを見てみようということで、骨をカルシウムだけにしてみたのが「Ca」です。逆にコラーゲンだけにしたのが「Collagen」です。これは骨の形をしていますがつるりとした感触です。

さて、骨はコラーゲンとカルシウム(とその他)でできているけれど、それぞれが何をしているかというのは想像できるかなということであります。
カルシウム骨(Ca)は硬いけど、擦るとボロボロ落ちてきます。無機質ですから、硬いけどすごくもろい。コラーゲン骨(Collagen)はソフト。しなやかな感じになっていまして、カルシウム骨の硬いのをコラーゲンで埋めることで、しなやか、しかもなかなか折れない骨の構造ができています。

前のコラムでゼラチンを糊として使うと言いましたが、生体内でもコラーゲンは骨の元となるカルシウムや細胞をちゃんとくっつける、糊的な役割をしています。生きた骨ではこの中に細胞がいっぱい生きています。細胞が生きていくために、細胞と細胞をくっつけるための糊になっているのです。

細胞がくっつかないと体はバラバラになってしまいます。体ができているというのはそういう糊(コラーゲン等)の役割が大事だということが言いたくてこの骨の例を出しました。カルシウムだけだと硬くて、でも折れやすい。コラーゲンだけだとしなやかだけど柔らか過ぎる。これが両方とも混ざって重要な役割をしています。骨がしっかりするためにとても重要なので、実際にコラーゲンがダメになるといろんな病気が生じます。この辺は医療関係者の方が詳しいと思います。

コラーゲンに関係する病気

コラーゲンがちゃんとできないため骨がバキバキに折れてしまう骨がもろくなる病気とか、関節が異常に曲がる病気とかもあります。また、肌の皮膚が異常に伸びる病気もあります。他の組織も遺伝的な変異やコラーゲンの劣化によって、血管が弱かったり、心臓にダメージがあったり、そういうことで病気になるということがありまして、当然コラーゲンがちゃんとしてないと病気になります。
そのような皮膚に出る症状は「Ehlers-Danlos syndrome(エーラス・ダンロス症候群)」といい、これにはいろんなタイプがあります。コラーゲンそのものがダメだったり、コラーゲンを作る酵素がダメだったり、コラーゲンをちゃんと丈夫にするためのちょっとした最後の一工夫がうまくいかなかったりとか。

また、骨が弱くなる「Osteogenesis Imperfecta(骨形成不全症)」という病気があります。これもやはりコラーゲンがうまくつくれないために起こります。

それから、逆にコラーゲンを異常にたくさんつくってしまうような病気で「線維症」があります。「肺線維症」、「肝臓の線維症」、「強皮症」などの病気がそれにあたります。これはコラーゲンが多いため、強皮症とか膠原病とか、そういう名前が付けられていますが、コラーゲンが悪者というよりも、たぶん正常に働ける細胞がダメになって、そこにしょうがないからコラーゲンが増えてきて、結果的にコラーゲンがいっぱいになってしまった症状が見られるので線維症と呼んでいるのであって、コラーゲンは仕方なくその隙間を埋めているような気もします。この辺についての治療法としてどのように考えているかは、いろんな人がいるでしょう。コラーゲンを減らせば治るかどうか、そこも微妙で、減らした上でちゃんとした肝臓なら肝臓の細胞、腎臓なら腎臓の細胞を増やすことが大事ではないかなとは思います。

関節のコラーゲンを壊しちゃうという病気もあって、これはリウマチといいます。関節の表面のツルツルしている所はコラーゲンでして、骨の硬い所とは別のタイプのⅡ型というコラーゲンでできています。これで関節同士がこすれずにスムーズに動くのですが、これが壊れてしまって関節の炎症が激しくて痛いとか、癒着しちゃったりするのがリウマチです。

癌の転移にも関係しています。それから腎臓、尿を作るところですが、ここではⅣ型のコラーゲンというのが非常に細かい網目状となって、そこが血液をろ過する構造を作っているんですけど、このろ過する構造がダメになる腎臓の病気「Alport syndrome(アルポート症候群)」とか、いろんな病気があります。

また、皮膚にもコラーゲンがたくさんあります。表皮と真皮、またその間にも基底膜という構造がありますけれども、その表皮と真皮を繋ぎとめているコラーゲンというのもあります。皮膚は厚い真皮の上に薄い表皮が基底膜構造を介して張り合わされた器官です。そこを繋ぎ合わせているいろんな構造の中にはボタンみたいに止めているところもあって、そこではⅦ型のコラーゲンというのが働いています。これがダメになると酷い水疱症という水ぶくれだらけで大変な病気になるなど、その他いろんな病気に関係します。

コラーゲンのこといろいろ
コラーゲンの構造

実際に人体にあるコラーゲンを電子顕微鏡でみると、下図左の画像ような線維構造がみえます。この線維構造の中にコラーゲン分子(下図右の模式図)がたくさん並んでいます。
このコラーゲン分子自体はすごく細長い分子からできていまして、長さが3メートル(実際は300nm)だとすると幅は1.5センチメートル(実際は1.5nm)ぐらいの、すごく細長いものが3本鎖らせん状に巻いています。

コラーゲンの構造

この一本一本はタンパク質でアミノ酸のつながりです。そのアミノ酸のつながりを調べると、らせん部分はアミノ酸が1,014個並んでいます。特徴的なことは、この1,014個の領域は絶対間違えずに、3つ目にG、グリシンというアミノ酸があることです。また、プロリンというアミノ酸も非常に目立ちます。しかもこのプロリンの中でも、特徴的に並ぶグリシンから2つ目N末側から数えたとき)のプロリンというのは、ハイドロキシプロリンという、他のタンパク質ではほとんどみられないアミノ酸になっています。
このハイドロキシプロリンですが、遺伝子にはハイドロキシプロリンというアミノ酸を指定するコードはありません。体の中にはプロリンというアミノ酸に水酸基(-OH)をくっつける働きをする酵素があるのですが、この酵素が一旦プロリンとしてできたタンパク質(コラーゲン)のこの場所を見つけてハイドロキシプロリンをつくっていきます。ハイドロキシプロリンにならないと、3本鎖らせん構造ができません。また、ハイドロキシプロリンの量がたくさんあることで、3本らせん構造がうまく安定しているというのは結構昔から知られているはなしです。

普通、動物種が違うと、タンパク質のアミノ酸配列には、アミノ酸の入れ替えが随分と多いものです。ですが、このコラーゲンについては種が違ってもかなり似ていて、ウシ、ヒト、マウスとニワトリ間のアミノ酸配列についてデータベースを利用して調べてみたところ、95%くらいの同一性がみられました。しかもアミノ酸の数も1,014個と全く同じになっています。
ようするにちゃんとした3本らせん構造を保つためには非常に規則が多くて、ちょっとでも外れると進化的にうまくいかないということがあるのだと思います。非常によく配列が保存されています。

医療用に使うときにも、普通は他の動物由来のものを体内に注射したりすると、免疫反応でアレルギーを起こしたりしますが、コラーゲンの場合は同一性が高いため、ヒトにウシのコラーゲンを使ったとしても、ほとんど免疫拒絶などはないということが知られています。
医療用には本当はヒト由来のコラーゲンを使った方がいいのでしょうけど、それが簡単に手に入らないときには、ウシとかブタのを使ってもほとんどそういう影響がないということは知られています。

コラーゲン分子の形態(Ⅰ型コラーゲン)

コラーゲンの一個一個の分子はこのような形をしています。

コラーゲン分子の様々な形態

温度を上げていくと、バラバラと3本らせん構造がほどけてゼラチンになります。さらに壊していくとゼラチンのペプチドになりますが、これはコラーゲン由来のペプチドですので、コラーゲンペプチドという名前でも呼ばれています。この状態になると非常によく水に溶けるので多くの健康飲料などに使われています。コラーゲン飲料というものにはだいたいコラーゲンペプチドが入っています。

分子量30万のコラーゲン分子の状態ではほとんど溶けないのですが、ニッピのグループ会社ではコラーゲン分子を溶かしたものを化粧品として販売しています。そして生体内ではこのコラーゲン分子がずっと並んで線維状のものをつくるということになります。この分子がたくさん並んで束になっているという状態です。

さまざまな動物のコラーゲンの変性温度

「ハイドロキシプロリン」とは、プロリンというアミノ酸に水酸基(-OH)がくっついたものですが、これがコラーゲンに特徴的です。特にこのハイドロキシプロリンがどのくらいあるかによって、コラーゲンの性質がすごく変わってきます。
前のコラムでも少しふれましたが、3本鎖がほどけてしまう温度というのは、円偏光二色性という一定の測定法があって、溶液温度を上げていくと次のグラフのようになります。

さまざまな動物コラーゲンの変性温度

縦軸が3本鎖のへリックス(らせん)の巻き具合で、横軸が温度です。温度が上がると巻いていたらせんがだんだんなくなっていきます。こういう温度を上げながら光をあてて3本鎖構造を調べるという方法です。

これで調べますと、一番低いのがシャケ(Salmon)ですね。20度くらいでほどけちゃいます。それからヌタウナギ(Hagfish)というのは25度くらい。サメ(Shark)が30度前後、カエル(Frog)が35度くらい、ウシ(Bovine)が42度。ニワトリ(Chick)がウシとほぼ同じかちょっと高いくらいです。

ほどける温度は、ハイドロキシプロリンの量と相関しています。ハイドロキシプロリンが少ないと変性温度が低い。ニワトリの変性温度が一番高くて、哺乳類は37度くらいの体温ですけども、体温よりちょっと上あたりに変性温度があります。

人が熱を出したとき42度くらいが限界というのは、コラーゲンの限界でもあって、関係があるのかもしれません。

シャケとか、寒い所にいるものは低い温度で変性します。カエルとかは変温動物ですけど、たぶん生きていくための限界の温度というのはこの辺(35度前後)にあるのではないかなというふうに思われます。
一般的に、海の生物だと生息している温度に近いところにその動物のコラーゲンの変性温度があります。でも、淡水魚はわりと高めです。これは生きている環境の差で、海の生物は温度によって北へ南へと逃げられるけれども、淡水魚は逃げられないから高い方に順化していると思います。

コラーゲンの変性温度を遺伝子だけで決めると生活環境に対応できないので、遺伝子配列では規定されないハイドロキシプロリンの含有量で変性温度が決まるのは、ハイドロキシプロリンをつくる酵素活性を調節して環境に合ったコラーゲンの安定性を決めているように思われます。

さまざまなタイプのコラーゲン

なぜか、コラーゲンはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型と、ローマ数字で示す習慣になっていまして、現在はXXⅧ型までぶ分類されています。

名前の付いたいきさつもいろいろありますが、1960年代まではコラーゲンといえばⅠ型しかありませんでした。1972年にミラーという人が軟骨のコラーゲンは腱や皮膚のコラーゲンと違うことを報告して、その後「Ⅱ型コラーゲン」という名前がつけられました。
Ⅱ型があるのなら、今までのはⅠ型にしようかということでⅠ型にして、そのあと皮膚からさらに違うコラーゲンが見つかってⅢ型としました。次は基底膜でⅣ型を見つけて、Ⅴ型見つけ、というような経緯で発見した順番に名前がついていきました。Ⅻ型くらいまではコラーゲンのタンパク質として見つかってきています。

ちょうどぼくが大学にいた頃(1980年初め)は確かⅤ型か、Ⅵ型かくらいまでしかわかっていなかったのですが、そのあと爆発的にコラーゲンの型が増えていきました。XV型以降はたぶん先に遺伝子が見つかって、そのあとにノックアウト動物とかでその遺伝子が無いとどういう病気になるかを調べたりして、その遺伝子がコードするタンパク質が持つ機能を調べるというようなことが進んでいます。 

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

様々なタイプのコラーゲン

細胞のコラーゲン認識

『コラーゲン研究の歴史』では1970年代くらいのところまでを話しましたが、そのあとコラーゲンとしていろいろわかってきたことは、細胞接着基質、つまり、体の中でも糊の役割をするということです。

ただ単に糊のようにくっつけるのではなく、細胞がコラーゲンを見わけて、そこがきちんとコラーゲンだということを細胞がわかっていて、細胞の方がコラーゲンにくっついていく、という構造の仕組みがわかってきたというのが80年代後半のことになります。

例えば、コラーゲンを塗ったお皿の上に皮膚の細胞をとってきてまいてみると、皮膚の表皮細胞という細胞がコラーゲンの上に“ビタッ”とくっつきます。 動画でその様子を12時間くらい追ってみますと、細胞はコートしたコラーゲンにくっついて動いて、もっと経つと細胞がどんどん増えてきて、細胞がきっちりコラーゲンにくっついて広がるという様子が観察できます。 コラーゲンを塗っていない表面上では細胞はずっと丸い形のままでいて、最後は死んでしまうものがかなりあって、コラーゲンがないとうまく細胞がくっつかずしかも生き残れないということがわかってきました。

細胞のコラーゲン認識

この図は、お皿の上にコラーゲンで「NIPPI」と書いてから細胞をまいてやったところです。コラーゲンが塗られたところだけに細胞が集まってきています。

細胞上にはコラーゲンセンサー装置があります。インテグリンというタンパク質で1980年代に見つかったものですが、これは細胞の表面にあるコラーゲンを察知することができます。細胞はこのアンテナでコラーゲンを見分けて、くっつきます。

お皿に塗ったコラーゲンを、コラーゲンが変性したゼラチンに変更すると、細胞からこのアンテナが出てこなくて、くっつきが悪くなります。細胞自身でくっつけるものを何とか絞り出して、出したそれをお皿の表面にくっつけてから、自分(細胞)が何とか生きてくっついているという状態です。初めからコラーゲンがあると、難なくそこに細胞がくっついて広がるということになります。

その他のつぶやき
何かにくっつく宿命の細胞と細胞外マトリックス

人間の体(の細胞)というのは、何かにくっついていないと生きていけないというのが宿命で、くっつかずに生きていけるのは血液の中に入っている血球とか、それぐらいで他のものは何かにくっついていないと生きていけないし、増えられないというのがあるので、くっつくというのはすごく大事な体の細胞の性質、性(さが)であるということになります。

くっつく相手としてはいろんなものが知られていて、コラーゲンもありますけど、その他にもラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、その他いろんなタンパク質など、細胞外マトリックス成分と一般的に呼ばれているものがあって、コラーゲンもその仲間です。
アンテナになる分子というのもいろんな分子があって、いろんな組み合わせで何にくっつくかというのが決まってきて、細胞の環境でどれにくっつきましょうというのを決めてきたりするということになっています。

バイオマトリックス研究所の「マトリックス」ってなんだろう

ニッピバイオマトリックス研究所の「マトリックス(Matrix)」の意味についてお話ししたいと思います。

「Matrix」は、もともとラテン語由来の言葉で、「mater」つまり母と同じ語源です。母性に関する言葉で子宮の意味もあります。日本語では「基質」と訳されていますが、マトリックスという言葉には日本語訳では表しきれない、命を生み出し育むものというもっと生き生きしたイメージが重なります。「mater」といえば西洋人は聖母マリアとか母親のことを思い浮かべるはずです。私達が取り扱っているコラーゲンやラミニンは細胞外マトリックスと呼ばれ、細胞の外で生きた細胞を守り支えています。このことから、バイオマトリックス研究所の「マトリックス」には「命ある細胞を守り育てる物」という思いを込めています。