研究・開発

ニッピ独自の研究開発の取り組み

革・膠(にかわ)の動物種判定法

絶滅危惧種の保全と公正な取引、貴重な文化財の研究へ

革は、動物の皮をなめしてつくられており、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、シカの革製品は動物種を表示することが法律で定められています。さらにワニ革は、全ての種がワシントン条約による規制対象となっており、種の保全や公正な取引のために輸出入申請の際には由来種や原産地などの明示が義務付けられています。ところが、現在の革の動物種判定は、電子顕微鏡による形態観察が一般的で、形態の特徴が類似した動物種間(ヒツジとヤギ、ワニ種間など)では判定が困難な状況となっています。
そのため、ニッピでは、これまでに培ったコラーゲン分析技術を活かし、革を酵素で分解して生じたコラーゲン由来のペプチドで動物種を判定する新しい方法を開発しました。この判定法は、革の由来動物種を高感度かつ正確に判定することができ、操作が簡便、判定に要する時間が短い、極微量の試料で判定できるため革の損傷を最小限に抑えられるなどの特徴があります。

さらに、ニッピでは、この新しい判定法を文化財の研究にも応用しています。
動物の骨や皮を煮ることで抽出される膠(にかわ)は、古くから絵画や壁画などの膠着材(こうちゃくざい)に使用されてきました。膠の原料となる動物は時代や地域によって異なり、また用途に応じた動物種の膠を使い分けることもあります。加えて、複数の動物種由来の膠が使用されていたり、製造工程で異なる膠が混入したりしている場合もあり、厳密に動物種を判定できないことが課題となっています。
ニッピでは、新しい革の動物種判定法を応用し、複数種混合試料へも適用できる膠の由来動物種判定法を確立しました。この新しい判定法を用いることで、美術作品や歴史資料(絵画、壁画、彫刻など)の膠を微量で分析できるようになり、それらの文化財が製作された当時の動物利用の実態や、芸術家が使用した材料・技法などの研究にも役立てることができます。

※ ペプチド
ペプチドは、アミノ酸が数個〜数十個つながったものです。ここでは革の主要成分であるI型コラーゲンが酵素で分解されて生じた断片のことを指します。

実例紹介

国立西洋美術館に所蔵されているカミーユ・ピサロ作《収穫》のカンヴァスから微量の試料を採取して分析したところ、 2種の動物(ウシとヒツジ)に由来する膠が使用されていることが明らかになりました。

カンヴァスから少量採取→酵素反応→コラーゲン由来ペプチドの検出

クラゲ由来コラーゲンに関する研究

大量廃棄されるクラゲの有効活用へ

クラゲは日本沿岸でたびたび大量発生しており、漁業では定置網の破損、漁獲物の品質低下、魚の選別作業への影響など、幾多の被害を与えています。また、火力・原子力発電所では大量のクラゲが冷却水の水路に流入してしまい、フィルターの目詰まりや破損などを引き起こす原因となっています。さらに、クラゲはそのほとんどが水分であり、回収、移送、保存、加工を効率的に行なう低コストで有効な方法がなく、ごく一部が食用に加工されているほかは、ほとんどが大量に廃棄されています。

これまで、ニッピは食肉製造で使用されない骨や皮を有効活用して、コラーゲンを製造する技術を確立してきました。その原料は主にウシ、ブタ、サカナなどですが、その他の生物にもコラーゲンは含まれており、ニッピではさまざまな生物から抽出したコラーゲンを分析・比較しています。
その中で、ニッピが見出したコラーゲン由来トリペプチド「Gly-3Hyp-4Hyp」が、無脊椎動物に多く含まれること、特にクラゲはその含有量がウシの5倍以上であることを発見しました。
ニッピでは、クラゲコラーゲンペプチドの吸収性や機能性の評価を進めており、これまで大量廃棄されていた数多くのクラゲを資源として有効活用するきっかけになると期待しています。

※ コラーゲン由来トリペプチド「Gly-3Hyp-4Hyp」
コラーゲンを由来とするアミノ酸が3個つながったペプチドで、骨形成細胞の分化を促進する作用や、他のペプチドに比べて安定で血液中に高い濃度で長時間保持されるといった特長があります。

種動物由来コラーゲンのGly-3Hyp-4Hyp含量のグラフ
各種動物由来コラーゲンのGly-3Hyp-4Hyp含量

クラゲ 写真